人事評価制度の作り方|5ステップの前に北極星を定めよう

人事評価制度の作り方をインターネットで検索すれば、「5つのステップ」や「7つの手順」といった、分かりやすい解説記事が、無数に見つかります。
多くの企業が、それらの手順書に忠実に従って、多大な時間と労力をかけて、新しい制度を作り上げます。
しかし、なぜでしょう。
完璧な手順書通りに作ったはずの制度が、いつの間にか機能不全に陥り、社員の不満の種となり、ただの形骸化した「作業」になってしまうのです。
それは、ほとんどの解説記事が、そしてそれを参考にする9割の企業が、人事評価制度の作り方における、最も重要な「事前ステップ」を見落としているからです。
この記事では、巷で語られる「5つのステップ」を網羅的に解説した上で、その成否を分ける、たった一つの、しかし最も重要な「事前ステップ」について、解説していきます。

【村井 庸介(むらい ようすけ)】
大学卒業後は株式会社野村総合研究所に入社し通信業・製造業の経営コンサルティングに携わる。その後リクルート、グリー、日本IBMに転職。その中でグリー株式会社にて人事制度設計に携わった。
2015年に独立後は、社員30名のベンチャー企業から5,000名を超える大企業まで幅広く人事制度設計や導入伴走に携わる。顧客業種は製造業、サービス、IT企業が中心。経営理念・事業戦略から逆算した人事制度構築を得意とする。
なぜ人事評価制度の作り方は5ステップだけでは不十分なのか

多くの企業が、人事評価制度の作り方で失敗します。
それは、彼らが手順を間違えたからではありません。
彼らは、そもそも、地図を持たずに、船を造り始めてしまっているのです。
手順通りに作っても制度が機能しない理由
「ステップ1:目的設定」「ステップ2:評価項目の策定」…。
これらの手順は、一見すると、非常に論理的で、正しいように思えます。
しかし、手順通りに作った制度が、なぜか現場の共感を得られず、社員のモチベーションを下げ、組織の活力を奪ってしまう。
そんな皮肉な現実が、多くの企業で起こっています。
その理由は、非常にシンプルです。
その制度に、社員が「なぜ、これをやる必要があるのか」を、心の底から納得できるだけの「魂」が、込められていないからです。
どれだけ精緻な部品を組み合わせても、魂、つまりエンジンがなければ、船はただの鉄の塊に過ぎません。
目的地なき航海は必ず失敗する
人事評価制度を作ることは、会社という「船」を造ることに似ています。
評価制度という船に乗って、社員という船員と共に、会社の成長という大海原へと、航海に出るのです。
では、社長であるあなたに、一つ、質問です。
あなたの船は、どこへ向かうのでしょうか。
その「目的地」が明確でないまま、とりあえず立派な船を造り、航海に出たとしたら、どうなるでしょう。
船員たちは、どこへ向かっているのか分からず、不安と不信感を募らせます。
やがて、船は嵐に巻き込まれ、大海の真ん中で、漂流してしまうに違いありません。
この「目的地」こそが、人事評価制度における、最も重要な要素なのです。
重要なのはステップ1のさらに前にある
多くの解説記事が教える「ステップ1:課題把握と目的設定」は、重要です。
しかし、それは、あくまで「どのような船を造るか」という、設計思想の話に過ぎません。
本当に重要なのは、そのさらに手前にある、「そもそも、我々はその船でどこへ向かうのか」という、航海の目的そのものを定めることです。
私たちは、それを「事前ステップ」と呼んでいます。
この事前ステップを抜きにして、いきなり5つのステップから作り始めてしまうことこそが、人事評価制度作りにおける、最大の失敗要因なのです。
次の章で、その最も重要な「事前ステップ」について、詳しく見ていきましょう。
人事評価制度の作り方 事前ステップ「北極星を定める」

人事評価制度の作り方における、全ての土台。
それは、テクニックや手順ではなく、社長であるあなた自身の「理念」です。
この章では、制度設計という名の航海に出る前に、絶対に定めなければならない、会社の進むべき道を照らす「北極星」について、解説します。
人事制度は社長の理念を映す鏡
人事評価制度は、単なる評価のためのツールではありません。
それは、社長であるあなたの「理念」や「価値観」が、そのまま映し出される「鏡」なのです。
あなたが「何を大切にし、どんな会社を創りたいのか」という想いが、等級、評価、報酬という、制度のあらゆる側面に、色濃く反映されます。
もし、あなたが心の底では「挑戦する人材」を求めているのに、制度が「減点主義」で、失敗を許さないものであれば、その鏡は、あなたの本心とは全く違う、歪んだ姿を映し出すでしょう。
社員は、社長の「言葉」ではなく、この「鏡」に映った姿を見て、会社の本当の価値観を判断します。
だからこそ、制度を作り始める前に、まず、あなた自身が、鏡に何を映したいのかを、明確にしなければならないのです。
あなたの会社の北極星を見つける方法
では、どうすれば、自社の「北極星」、つまり会社の理念を、明確にすることができるのでしょうか。
それは、他社の事例や、経営書の中に答えを探すことではありません。
答えは、社長である、あなた自身の心の中にしかありません。
ぜひ、一人で静かになれる時間を確保し、以下の問いに、正直に、そして具体的に、向き合ってみてください。
・質問1:これまでの経営者人生で、社員のどんな行動を見て、心の底から「嬉しい」と感じましたか? ・質問2:逆に、社員のどんな行動を見て、心の底から「がっかりした」あるいは「許せない」と感じましたか? ・質問3:会社の業績が絶好調な時、その利益を、どんな働きをしたチームに、最も多く分配したいですか?
これらの問いに対する、あなたの「本音」の答えこそが、あなたの会社が進むべき道を照らす、「北極星」の正体です。
最初に定めるべき会社の「法律」の基本原則
「北極星」が見つかったら、それを、会社の最も上位のルール、つまり「法律」の基本原則として、言語化します。
著者の思想の根幹には、「人事評価制度は、会社という王国の法律である」という考え方があります。
そして、その法律の基本原則とは、「この国では、どのような国民(社員)が、最も尊敬され、報われるのか」という、価値観の表明に他なりません。
これは、社長が「誰をえこひいきするか」を、全社員に向けて、明確に宣言する行為でもあります。
「我が社は、挑戦する者を、えこひいきする」 「我が社は、誰よりも顧客に誠実な者を、えこひいきする」
この、社長の覚悟のこもった「法律の基本原則」こそが、これから始まる、5つのステップ全ての、ブレない指針となるのです。
人事評価制度の作り方5ステップ

会社の進むべき道を示す「北極星」が定まったら、いよいよ、具体的な船作りのステップに入ります。
ここでは、一般的な人事評価制度の作り方である「5つのステップ」を解説します。
ただし、常に「事前ステップで定めた北極星に、その選択は合っているか」と、自問しながら読み進めてください。
ステップ1:課題把握と目的設定
最初のステップは、現状の組織が抱える課題を洗い出し、今回の制度設計で、何を達成したいのかという「目的」を設定することです。
これは、航海で言えば、「なぜ、新しい船が必要なのか」「その船で、どんな海を渡りたいのか」という、航路を決定する作業です。
社員アンケートやヒアリングを通じて、「現在の評価制度に、どんな不満があるか」「どんな制度であれば、もっと活躍できるか」といった、現場の声を吸い上げます。
そして、「北極星」に照らし合わせ、「人材育成の促進」や「挑戦する文化の醸成」といった、今回の制度設計が目指す、具体的なゴールを定めます。
ステップ2:評価基準と項目の決定
次に、定めた目的に基づき、「何をすれば評価されるのか」という、具体的な評価基準と項目を決定します。
これは、航海の「羅針盤」を作る、極めて重要な作業です。
羅針盤が指し示す方向が、北極星とずれていては、目的地にはたどり着けません。
例えば、北極星が「挑戦」であるならば、評価項目には「成果」だけでなく、「挑戦のプロセス」や「失敗から学んだ経験」といった項目を加える必要があります。
会社の理念や行動指針(バリュー)を、具体的な行動レベルの言葉に落とし込み、評価項目として設定していくのです。
ステップ3:評価方法とルールの設定
評価基準が決まったら、次に「誰が」「どのように」評価を行うのか、という具体的な評価方法とルールを設定します。
これは、安全な航海のための「航海術」を定める作業です。
上司だけが評価するのか、同僚や部下も評価に参加する「360度評価」を導入するのか。
評価結果を、昇給や賞与、昇格といった処遇に、どのように反映させるのか。
これらのルールを、明確に、そして公平に定めます。
ここでも、「北極星」への意識が重要です。
北極星が「チームワーク」であるならば、個人の評価だけでなく、チームとしての成果も、処遇に反映させるルールが必要になるでしょう。
ステップ4:システム整備と社員への周知
制度の骨格が固まったら、それを円滑に運用するための、システムやフォーマットを整備します。
評価シートや、評価管理システム、給与テーブルなどが、これにあたります。
そして、最も重要なのが、完成した新制度を、全社員に「周知」することです。
これは、新しい船の「出航準備」です。
なぜ、この制度を作るのかという「目的(北極星)」から、具体的な評価基準やルールまで、説明会やマニュアルを通じて、丁寧に、そして繰り返し説明します。
この周知を怠れば、社員は新しい船に、期待を持って乗り込んではくれません。
ステップ5:運用開始と定期的な見直し
いよいよ、新しい制度の「運用開始」、つまり「出航」です。
しかし、船は、一度航海に出たら、それで終わりではありません。
天候の変化や、予期せぬトラブルに対応しながら、常に進むべき方向を「修正」していく必要があります。
制度運用後に、社員から意見を吸い上げたり、その効果を測定したりしながら、定期的に制度を「見直し」、より良いものへと、改善し続けるのです。
このPDCAサイクルを回し続けることが、制度を形骸化させず、「生きた仕組み」として機能させるための、最後の鍵となります。
まとめ:北極星があれば人事評価制度の作り方は間違えない

人事評価制度の作り方。
その成否を分けるのは、5つのステップを、いかに巧みにこなすか、ではありません。
それは、その全てのステップの、さらに手前にある「事前ステップ」で、社長であるあなたが、どれだけ明確で、力強い「北極星」を、夜空に掲げられるか。
ただ、その一点にかかっています。
まず社長が向き合うべき問い
人事評価制度の作り方で、もし、あなたが道に迷ったなら。
複雑な評価項目や、最新の評価手法に、惑わされる必要はありません。
ただ、原点に立ち返り、あなた自身に、こう問いかけてください。
「私は、どんな星を目指して、この会社という船を、動かしているのだろうか?」
その問いに対する、あなたの誠実な答えこそが、人事評価制度の作り方における、唯一無二の、そして最も確かな、道しるべとなるのです。
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