日本でジョブ型雇用は合わない?日本でも成功するコツは?


「これからはジョブ型の時代だ」

そう言われ、あなたの会社でもジョブ型雇用を導入、あるいは検討しているかもしれません。

しかし、同時にこんな不安も抱えていませんか。

「本当に日本の企業文化にジョブ型は合わないのではないか」

「導入したはいいが、現場の社員のやる気を削いで、かえってチームワークが崩壊するのではないか」

結論から申し上げます。

ジョブ型雇用が日本で「合わない」とされるのは、その制度の「形」が悪いからではありません。

多くの企業が、ジョブ型が要求する「本質」を見誤り、「理念」という名の背骨を欠いたまま導入しているからです。

この記事では、ジョブ型導入の失敗に隠された「真の原因」を徹底的に解き明かします。

そして、日本の企業文化を活かしつつ、ジョブ型を成功させ、社員の情熱と生産性を最大化するための、唯一の「成功のコツ」をお伝えします。


【村井 庸介(むらい ようすけ)】
大学卒業後は株式会社野村総合研究所に入社し通信業・製造業の経営コンサルティングに携わる。その後リクルート、グリー、日本IBMに転職。その中でグリー株式会社にて人事制度設計に携わった。
2015年に独立後は、社員30名のベンチャー企業から5,000名を超える大企業まで幅広く人事制度設計や導入伴走に携わる。顧客業種は製造業、サービス、IT企業が中心。経営理念・事業戦略から逆算した人事制度構築を得意とする。


日本でジョブ型雇用が合わないとされる3つの理由


ジョブ型雇用は、欧米では一般的ですが、終身雇用を前提としてきた日本企業に導入しようとすると、文化的な摩擦が生じます。

この摩擦こそが、「合わない」と言われる主な理由です。

理由1 メンバーシップ型文化との構造的な衝突

従来の日本企業は、社員を「メンバー」として迎え入れ、職務を限定せず、会社への忠誠心や協調性を評価する「メンバーシップ型」の文化で長く成り立ってきました。

一方、ジョブ型は、職務内容(ジョブ)を明確に定め、その職務遂行能力に対して給与を支払う「職務給」を核とします。

この二つの文化は、根本的に対立します。

「自分のジョブではないからやらない」というジョブ型の考え方は、「困っている仲間を助ける」というメンバーシップ型の協調性を破壊し、組織全体に構造的な衝突を生むのです。

理由2 ジョブ定義の曖昧さが現場の混乱を招く

ジョブ型雇用を成功させる大前提は、職務記述書(ジョブディスクリプション)によって、各社員の職務内容、責任、権限を極めて詳細かつ明確に定めることです。

しかし、変化の速い日本のビジネス環境や、社員の柔軟な働き方に慣れた企業文化では、この「ジョブ定義」がどうしても曖昧になりがちです。

「ジョブの範囲外の仕事は誰がやるのか」「新しい事業が生まれた際のジョブは誰に割り当てるのか」といった問題が解決されないまま導入されると、現場は「制度はあるが、誰も責任を取らない」という、深刻な混乱状態に陥ります。

理由3 評価の厳しさがチームワークを崩壊させる

ジョブ型は、個人の職務遂行能力と成果に、報酬がダイレクトに連動します。

この厳格な「成果主義」的な評価システムが、日本の「助け合い」の精神と衝突します。

社員は、自分の評価を最大化するために、チームの情報を共有しなくなり、ノウハウを抱え込み、他人のジョブの支援を避けるようになります。

結果として、厳しすぎる評価が、本来日本企業が強みとしてきたはずの、部門を超えたチームワークと、相互扶助の精神を、崩壊させてしまうのです。

成功しない会社が繰り返すジョブ型導入の罠


ジョブ型が日本に合わないのではなく、導入する企業が「ジョブ型とは何か」の本質を見誤り、自ら失敗の罠に飛び込んでいるケースがほとんどです。

罠1 形だけを真似た「大企業ごっこ」

ジョブ型は、大企業が導入を発表すると、その流れに乗って「うちもやらないと」と、形だけを真似てしまう企業が多くいます。

これが、一つ目の罠「大企業ごっこ」です。

本来、人事制度は、その会社の事業戦略と、組織文化に深く根差した、オーダーメイドであるべきです。

大企業の複雑な制度を、そのまま、自社の戦略と理念に照らし合わせることなく導入しても、それは、ただ社員の不満と、人事部の作業量が増えるだけで終わります。

罠2 評価基準の公平性だけを追い求める病

ジョブ型の導入理由として、「評価の公平性を高める」ことが挙げられますが、公平性だけを追い求めることは、二つ目の大きな罠です。

公平性とは、点数を平等に配分することではありません。

人が評価に求めるのは、「社長が、この会社で何を最も大切にし、そのために自分は何をすれば報われるのか」という、明確な判断軸です。

この判断軸、つまり「理念」が不在のまま、客観的な基準ばかりを追い求めると、制度は冷たくなり、社員は「機械に評価されている」と感じ、心を閉ざしてしまいます。

罠3 50名未満の会社にジョブ型は原則不要

私が、特に中小企業の経営者に強く警告したいのが、この罠です。

従業員数50名未満の会社では、社長の目が行き届き、個々の社員の貢献や、努力を直接見ることができます。

この「社長の目」と「社長の言葉」こそが、最高の評価制度です。

ジョブ型という複雑な制度を導入することは、社長と社員の間に、無用な管理の壁を作り、かえって組織の機動性と、社員のエンゲージメントを低下させる原因となります。

小規模な組織では、ジョブ型は原則不要であり、その導入はマイナスの経営インパクトになりかねません。

ジョブ型導入の成否を分ける「理念」という名の北極星


ジョブ型雇用を日本で成功させるための鍵は、制度のテクニックを学ぶことではありません。

それは、「ジョブを誰に任せるか」を考える前に、「会社がどこへ向かうのか」という「理念」を明確にすることです。

ジョブ型が要求する「会社の法律」の明確さ

ジョブ型は、社員の職務を明確に限定する代わりに、その職務に対する責任を明確にします。

この責任と権限を明確にする行為こそが、「会社という王国の法律」を制定することに他なりません。

この「法律」は、社長の「理念」に基づいている必要があります。

「私たちの会社は、〇〇という価値観を最優先する」という理念がなければ、どんなに精緻なジョブ定義も、ただの紙切れとなり、社員はどの法律に従って行動すべきか分からなくなります。

理念なきジョブ型は社員の心を冷ます

理念なきジョブ型を導入すると、社員は自分の「ジョブ」だけをこなし、それ以上の貢献をしなくなります。

なぜなら、制度が「ジョブの範囲外の協調や献身を評価しない」というメッセージを発しているからです。

社員は、会社への情熱や、利他的な行動を、冷たいルールによって評価されないと感じ、心を冷やしてしまいます。

ジョブ型を成功させるためには、職務の遂行だけでなく、その遂行のプロセスが、会社の理念に沿っているかを評価する仕組みが不可欠なのです。

ジョブ型を成功させる社長の「愛あるえこひいき」

ジョブ型の評価が日本で特に難しいとされるのは、日本の文化では、評価に「情」を求めるからです。

しかし、私は、その「情」こそが、ジョブ型の成功の鍵だと考えます。

社長が理念に基づき、「この会社で、誰が、どのような貢献をすれば、愛されるのか、報われるのか」という基準を明確にすること。

これが、私の提唱する「愛あるえこひいき」です。

この「愛あるえこひいき」の基準を、評価制度に組み込むことこそが、ジョブ型が求める厳格さと、日本的な納得感を両立させる、唯一の道筋となります。

日本でジョブ型を成功させる唯一のコツ


ジョブ型を日本企業で成功させるための唯一のコツは、メンバーシップ型の文化や協調性を破壊することなく、「理念」というフィルターを通して、制度を設計し直すことです。

コツ1 職務より先に理念を設計する

ジョブ型導入を検討する際、多くの企業は「ジョブディスクリプション」の作成から入ります。

しかし、これは間違いです。

ジョブ型雇用を成功させるための第一のコツは、「職務」を定義する前に、「会社が最も大切にする価値観(理念)」を、言語化し、設計することです。

この理念が、「ジョブ型雇用」という制度の設計図であり、「北極星」となります。

理念が定まって初めて、「この理念を実現するために、どのような職務が必要か」という、意味のあるジョブ定義が可能になるのです。

コツ2 理念を等級評価報酬の軸にする

第二のコツは、その設計した理念を、等級、評価、報酬の三つの人事制度の核に、として組み込むことです。

評価: 職務成果だけでなく、理念を体現した行動プロセスを、評価項目に組み込む。

等級: 専門性だけでなく、理念の体現度が、上の等級に上がる必須要件とする。

報酬: 理念を最も体現した社員を、積極的に「えこひいき」して報いる。

これにより、社員は「ジョブの範囲外の協調性」を発揮しても、それが理念に沿っている限り、必ず報われるという安心感を得ることができます。

コツ3 社長がジョブ型の法律を体現する

そして、最も重要な第三のコツは、社長自らが、この「理念に基づいたジョブ型雇用」を、誰よりも厳格に体現し、語り続けることです。

ジョブ型雇用は、制度を導入しただけでは機能しません。

社長が、理念を体現した社員を公の場で賞賛し、理念に反した行動には、毅然とした態度で臨むという、一貫したリーダーシップを見せることで、制度に「魂」が吹き込まれます。

社長のその一貫性が、社員の納得感を生み、ジョブ型を、日本の企業文化に根付かせる力となるのです。

まとめ ジョブ型導入の前に理念を定めよ

ジョブ型雇用が日本で合わないとされるのは、単なる文化の違いではありません。

それは、多くの企業が、ジョブ型導入の前に、その成否を分ける「理念」という名の北極星を定めなかったからです。

あなたの会社には北極星がありますか

最後に、社長であるあなたに、改めて問いかけます。

あなたの会社は、ジョブ型という船を、どこへ向かわせるために導入しようとしているのですか。

その航路を示す、「北極星(理念)」は、明確に定まっていますか。

もし、理念なきままジョブ型を導入しようとしているのならば、それは、船の舵を切らずに荒海に出るようなものです。

失敗と混乱は、避けられないでしょう。

ジョブ型導入に関する個別相談

もしあなたが、ジョブ型雇用の失敗の罠を避け、自社の理念と文化に合った、真に機能するジョブ型雇用や人事制度を設計したいと願うならば、ぜひ私にご相談ください。

私は、単なるジョブディスクリプションの作り方を教えるのではありません。

あなたの会社の「理念」を明確にし、それをジョブ型という「会社の法律」へと昇華させ、社員の情熱を引き出す、唯一無二の制度設計を、共に行います。

あなたの会社の新たな成長を共に創り上げることを、心から楽しみにしています。


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