人事評価制度はエクセルで作れる?運用と限界、システム化のタイミングまで徹底解説

このコラムではクラフトビール会社の新規事業で年商1億円を達成してから1.5倍2倍へと成長させてきた村井が、その実践的なノウハウを紹介しています。
またコンサルティング会社として新規事業の立ち上げをサポートした、または大手の会社とのお仕事から培ってきた経験をお届けしています。
今回は「人事評価制度はエクセルで作れる?運用と限界、システム化のタイミングまで」というテーマで解説します。

【村井 庸介(むらい ようすけ)】
大学卒業後は株式会社野村総合研究所に入社し通信業・製造業の経営コンサルティングに携わる。その後リクルート、グリー、日本IBMに転職。その中でグリー株式会社にて人事制度設計に携わった。
2015年に独立後は、社員30名のベンチャー企業から5,000名を超える大企業まで幅広く人事制度設計や導入伴走に携わる。顧客業種は製造業、サービス、IT企業が中心。経営理念・事業戦略から逆算した人事制度構築を得意とする。
はじめに:人事評価制度はなぜ重要なのか?

企業が成長していく上で、社員のモチベーション向上と組織力の強化は欠かせません。
この両方を実現するための重要な仕組みが「人事評価制度」です。
人事評価制度は、単に社員の給与や昇進を決めるためだけの制度ではありません。社員一人ひとりの働きぶりや成果を公平かつ客観的に評価し、その結果をフィードバックすることで、個々の成長を促す役割を担います。
また、評価を通じて企業の経営方針やビジョンを社員に浸透させ、組織全体の目標達成に繋げる重要なツールでもあります。
しかし、人事評価制度の導入や運用は決して簡単ではありません。
特に中小企業では、専門的な知識を持った人材が不足していることや、コストを抑えたいという理由から、導入に二の足を踏んでしまうケースが少なくありません。
多くの企業が、まずは身近なツールであるエクセルを使った人事評価制度の構築・運用を検討します。
本記事では、エクセルで人事評価制度を運用するメリットとデメリット、そして運用のポイントや限界について、詳しく解説していきます。
中小企業に多い?人事評価制度にエクセルが選ばれる3つの理由

多くの企業が人事評価制度のツールとしてエクセルを検討するのは、その手軽さと柔軟性にあります。
特にコストやリソースが限られる中小企業では、以下の3つの理由からエクセルが選ばれることが多くあります。
【コスト】追加費用ゼロで人事評価制度を始められる手軽さ
エクセルは、多くのオフィスPCにプリインストールされているため、新たなツール導入費用がかかりません。
今ある環境で人事評価制度をすぐに始められる手軽さが最大の魅力です。
専門のシステムを導入しようとすると、初期費用や月額費用が発生しますが、エクセルであればそうしたコストを一切かけずに運用を開始できます。
これは、限られた予算の中で最善の選択をしたいと考える中小企業の経営者にとって、非常に大きなメリットとなります。
また、万が一制度が自社に合わなかった場合でも、システムのような高額な投資が無駄になるリスクがないため、気軽に試せるという側面もあります。
【自由度】自社に合わせてエクセル評価シートを自由に設計できる
エクセルは、テンプレートに縛られることなく、自社の事業内容や評価したい項目に合わせて、評価シートを自由にカスタマイズできます。
例えば、営業職であれば「売上達成率」、エンジニアであれば「プロジェクト貢献度」といったように、職種や部署ごとに異なる評価項目を設定することが可能です。
さらに、評価の重み付けや計算式も自由に設定できるため、自社の文化や経営方針に最も適した評価制度を柔軟に構築することができます。
既存の評価シートを参考にしつつ、自社の状況に合わせて項目を調整するといった柔軟な対応も可能です。
【操作性】多くの社員が使い慣れていて導入がスムーズ
エクセルは多くの社員が日頃から業務で使っているため、新しいツールの操作方法を教育する手間や時間がほとんどかかりません。
人事評価制度を導入する際、新しいシステムの使い方を全社員に周知徹底するのは大きな負担となります。
しかし、エクセルであれば、社員は普段の業務で培ったスキルをそのまま活かせるため、スムーズな導入が期待できます。
評価者である管理職や、被評価者である一般社員も抵抗感なく利用できるため、制度の定着が早まるという利点があります。
今すぐ使える!エクセルで人事評価制度シートを作成する3つのステップ

エクセルで人事評価制度のシートを作成する際は、以下のステップを踏むことで、より効果的なシートを作ることができます。
このステップを順守することで、評価の公平性や透明性を高めることができ、制度の形骸化を防ぐことに繋がります。
STEP1:評価の「目的」を明確にする(何のために人事評価制度を運用するのか)
人事評価制度を運用する上で最も重要なのが、「なぜ評価するのか」という目的を最初に明確にすることです。目
的が曖昧なまま評価を始めると、評価項目がブレてしまったり、評価結果が給与や昇進に適切に反映されず、社員の不満に繋がることがあります。
例えば、社員の成長を促すことが目的なら、成長目標を設定し、その達成度を評価する項目を設けるべきです。
給与決定の根拠とすることが目的なら、業績への貢献度を客観的に評価できる項目が必要になります。
評価の目的を経営陣や社員全員で共有することが、制度成功の鍵となります。
STEP2:評価シートの種類を選ぶ(MBO・コンピテンシー評価など)
目的が明確になったら、それに適した評価方式を選びます。
代表的な評価方式には、個人の目標達成度を測るMBO(目標管理)や、能力や行動特性を評価するコンピテンシー評価などがあります。
MBOは、社員自身に目標を設定させることで主体性を引き出し、目標達成に向けたモチベーションを高める効果があります。
一方、コンピテンシー評価は、成果に至るまでのプロセスや行動を評価するため、社員の能力開発や行動規範の浸透に役立ちます。
また、両者を組み合わせたハイブリッド型の評価制度も多くの企業で導入されています。
STEP3:評価項目と基準、ウェイト(重み付け)を設定する
評価方式が決まったら、具体的な評価項目と基準を設定します。
「コミュニケーション能力」や「業務遂行能力」といった抽象的な項目だけでなく、それぞれの項目に対する評価基準を詳細に記述することが重要です。
例えば、「コミュニケーション能力」の評価基準を「常にチームメンバーと円滑なコミュニケーションを取り、プロジェクトをスムーズに推進できる」といった具体的な行動レベルで定義することで、評価者の主観を排除し、公平な評価に繋がります。
さらに、項目ごとに重要度に応じたウェイト(重み付け)を設定することで、より公平な評価が可能になります。
エクセルを最大限活用して人事評価制度を運用するテクニック

エクセルは単なる表計算ツールではありません。
以下の機能を活用することで、人事評価制度の運用にかかる手間を大幅に削減できます。
これらのテクニックを駆使することで、手作業によるミスを減らし、業務効率を向上させることができます。
《入力編》ミスと手間を減らす「プルダウンリスト」と「入力規則」
評価者が評価を入力する際、自由記述ではなくプルダウンリストで選択肢を用意することで、入力ミスを防ぎ、入力を統一化できます。例えば、「S」「A」「B」「C」といった評価項目をリスト化することで、評価者が誤った文字を入力することを防げます。
また、入力規則を設定することで、評価が指定した範囲の数値以外入力できないようにすることも可能です。
これにより、評価者が入力する際の負担を軽減し、データの一貫性を保つことができます。
《集計編》評価集計を自動化する基本関数(IF, VLOOKUP, SUMIFなど)
IF、VLOOKUP、SUMIFなどの関数を使えば、評価結果の集計を自動化できます。
例えば、IF関数を使えば、特定の評価項目が一定の点数を超えた場合に「優良」と自動判定したり、VLOOKUP関数を使えば、社員IDをキーにして過去の評価データを自動で参照したりすることができます。
これにより、手作業による計算ミスを防ぎ、集計にかかる時間を大幅に短縮できます。これらの関数を組み合わせることで、より複雑な集計も自動化することが可能です。
《分析編》傾向を可視化する「条件付き書式」と「グラフ機能」
条件付き書式を使えば、特定の評価が低いセルに自動で色をつけたり、逆に高いセルを目立たせたりすることができます。
これにより、人事担当者は評価結果の全体像を直感的に把握しやすくなります。
また、グラフ機能を使えば、部署や個人の評価傾向を視覚的に把握したり、過去の評価データとの比較を容易に行うことができます。
これにより、評価結果を客観的に分析しやすくなり、社員の成長課題や組織全体の課題を発見する手助けになります。
陥りがちな罠とは?エクセルで人事評価制度を運用する「限界」と4つのデメリット

エクセルでの運用は手軽な反面、組織が成長するにつれて、以下のデメリットが顕在化するリスクがあります。
これらの課題は、従業員数が少ないうちは見過ごされがちですが、組織が拡大するにつれて深刻な問題となる可能性があります。
ファイル管理の煩雑化(ファイルが多すぎる、最新版が不明など)
従業員数が増えるほどファイル数が増え、「誰がどのファイルを持っているか」「どのファイルが最新版か」といった管理が煩雑になります。
メールでファイルを送受信する運用の場合、評価者が誤って古いファイルに評価を入力してしまったり、人事担当者が最新版のファイルを特定できなくなったりといったトラブルが発生しやすくなります。
属人化のリスク(担当者の異動・退職で運用が止まる)
評価シートの作成や関数の設定が特定の担当者に依存している場合、その担当者が異動や退職をした際に、運用方法が分からなくなり、制度そのものが停止してしまうリスクがあります。
複雑な関数やマクロを組んでいる場合、その知識が引き継がれなければ、誰も運用できなくなってしまいます。
セキュリティの問題(評価情報の漏洩リスク)
機密性の高い評価情報をエクセルファイルでやり取りすると、誤送信やPCの紛失などによる情報漏洩リスクが高まります。
また、ファイルにパスワードをかけていても、パスワードを共有する際に漏洩してしまう可能性や、不適切なアクセス権限設定により、本来評価を見るべきでない社員がファイルを開いてしまうリスクもあります。
データ分析・活用の限界(過去データとの連携や多角的な分析が困難)
複数のファイルに分散したデータを統合して分析するのが難しく、過去の評価データとの比較や多角的な分析が困難になります。
例えば、社員の過去3年間の評価推移を分析したり、部署間の評価傾向を比較したりするには、多くの手作業が必要となり、現実的な運用が難しくなります。
これにより、せっかく蓄積された評価データが十分に活用されないという事態に陥ってしまいます。
エクセルの限界が見えたら?人事評価制度システムに切り替えるタイミング

エクセルでの運用が向いているのは、従業員数が少なく、評価項目がシンプルな企業です。
しかし、「従業員50人の壁」を超えるあたりから、管理の複雑さや業務の負担が増し、エクセル運用の限界が見え始めることが多くあります。
具体的には、以下のような兆候が見られたら、人事評価制度システムへの移行を検討すべきタイミングと言えるでしょう。
- 人事担当者が評価の集計作業に多くの時間を取られている
- 最新の評価ファイルがどれか分からなくなり、混乱が生じている
- 評価シートの誤入力や計算ミスが頻発している
- 評価データのセキュリティに不安を感じている
エクセルでの運用に限界を感じたら、人事評価制度システムへの移行を検討しましょう。
システムを導入することで、以下のようなメリットが得られます。
人事評価制度システムで実現できること(エクセルとの違い)
1つ目に、一元管理です。
すべての評価データをシステム上で一元管理し、ファイルの煩雑な管理から解放されます。
誰がどの評価シートを提出したか、進捗状況はどうなっているかといった情報をリアルタイムで把握できます。
次に、セキュリティ強化の側面です。
高度なセキュリティ機能で評価情報を安全に管理できます。アクセス権限を細かく設定できるため、評価者や人事担当者以外が機密情報にアクセスすることを防げます。
また、業務効率化も期待できます。
評価シートの配布、回収、集計、分析といった一連の作業を自動化し、人事担当者の負担を大幅に軽減します。
これにより、人事担当者は本来の業務である社員育成や制度改善に時間を割くことができます。
最後に、データ活用です。
過去の評価データとの比較や、部署ごとの評価傾向を簡単に分析できます。システムが自動でグラフやレポートを作成してくれるため、人事戦略の立案に役立つ客観的なデータを得ることができます。
まとめ:自社に合った最適な人事評価制度の形を見つけよう

エクセルは、手軽に人事評価制度を始めるには最適なツールです。
しかし、組織の成長とともに、運用の難しさやリスクが顕在化します。自社の規模や課題に応じて、エクセルと人事評価制度システムのどちらが最適かを見極めることが重要です。
本記事でご紹介した内容を参考に、自社に合った最適な人事評価制度の形を見つけてください。
エクセルでの運用を最大限に活用しつつ、将来的なシステム導入も視野に入れることで、企業の成長に合わせた柔軟な人事評価制度を構築できるでしょう。
人事評価制度にお困りの方は、お気軽に村井にご相談ください。
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